佐藤直曉の著書を解説する「佐藤直曉と読者のサークル」

暗示型戦略

暗示型戦略

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暗示型戦略は確信を呼び起こす戦略である

◆こんな方にお薦めします

不安におびえている人たちの勇気を鼓舞し、引っ張っていかなければならない方。

部下に成功の確信を与えて、リードしたいと思っている方。

この本は、そんな方のために役立つノウハウを提供しています。特に、プロセス暗示という手法を中心に解説しています。

ゴールまでのプロセスをうまく提示することは、実は確信を与える暗示にもなりうるのです。そのためのプロセスの設計方法を説明しています。

プロセス暗示は私の造語ですが、有能なリーダーは知らず知らずに使っています。

◆本書の目的

 本書の目的は、メンバーに成功を確信させる戦略の立案方法を示すことにある。本書のノウハウは、ビジネス上の問題ばかりでなく、日々の生活で生じる問題にも活用でき、また活用する価値があると考える。したがって、企業のチーム・リーダーだけではなく、NPOのような非営利団体などで新たな活動を企画しているリーダーにも、ぜひ本書を読んでいただきたい。

 メンバーに成功を確信させる戦略を構築するためには、リーダーは以下の二点を学ばねばならない。
 第一は、成功を確信させるための暗示技術である。
 第二は、この暗示技術を効果的に戦略に組む入れる方法論である。

 まず、第一の暗示技術についてであるが、おそらく大方の読者が想像するように、暗示技術というのはなかなか難しいものである。そこで、本書では比較的マスターが容易で、使いやすく、かつ効果のあがるプロセス暗示という暗示技術を紹介する。

 なお、本書で言う暗示技術は、自己暗示のことではない。リーダーがメンバーの否定的な観念をとくための技術である。暗示技術の網羅的な説明は拙著『リーダーの暗示学』をお読みください。

◆プロセス暗示とは何か

 もしあなたがインフルエンザにかかり、39度の高熱を発しているとする。こんな時に、かかりつけの医者が、こう言ってくれたら、どんなに心強いだろう。

「今年のインフルエンザは、下痢や高熱が出ます。でも、そのあと、これこれこういうプロセスで治っていきます。ですから、高い熱が出ても大丈夫なんですよ」

 しかも、実際その通り症状が進行していったとすれば、あなたは医師を信頼し、高熱があってもそれほど不安に陥らないはずだ。見通しのたつことぐらい、人間にとって安心できることはない。

 要するに、プロセス暗示とは、はじめにゴールに至るまでのプロセスを示し、それがそのとおりに進行するようにもっていく方法なのである。プロセスの初期の部分が実現し始めると、メンバーは、プロセス全体に信頼をおくようになる。不安がなくなれば、意欲や集中力が増すのは自明だ。

 次に、どうすればこのプロセス暗示を組み込んだ暗示型戦略を構築できるかである。暗示型戦略を用いるリーダーは、ゴールまでの道筋(プロセス)を予告する。この道筋は、いくつかのステップから構成されているが、予告されたステップを通過するたびに、メンバーの成功への自信と確信は高まっていく。そうなるようにプロセスを設計していく必要がある。

 言うまでもないが、漠然とゴールまでの道筋を描くのでは、暗示効果は生じないし、成功の確信も生まれない。本書は、心理的効果を配慮しながら、その道筋をつけていく。その点が、本書のユニークなところだと、私は自負している。

 暗示型戦略では、ステップを組むさい、いくつかの原則がある。本書では、それらについて詳しく説明しているので、それを参考にしながらゴールまでの道筋を考えていけば、効果的な暗示型戦略を構築できるはずだ。

◆本書の構成

 第一部(第一章から第三章まで)はプロセス暗示の概要を説明している。

 第一章では、読者がプロセス暗示のイメージを得られるように、簡単な実例を用いながら説明をしている。

 第二章では、暗示の本質を理解するための基礎知識を読者に提供している。ここでは、流言が世間に広まる過程を分析することによって、他人の言葉を信じてしまうメカニズムを解明している。この章を読めば、メンバーが『できる』と信じてしまう暗示の働きを理解できるだろう。

 第三章では、プロセス暗示の基本概念をまとめている。ここでは、プロセスの提示が、メンバーにどのような心理効果を与えるかなどについて説明している。

 第二部(第四章から第九章まで)は、暗示型戦略の説明と、暗示型戦略プロセスを構築する際の具体的方法論について述べている。

 第四章では、読者が暗示型戦略のイメージを得られるように、事例として日本ビクターのVHS事業戦略を紹介している。

 第五章では、第一原則(最も動きやすいところから着手せよ)を説明している。

 第六章では、第二原則(プロセスが「見える」ようにせよ)を説明している。

 第七章では、第三原則(課題の選択を誤るな)を説明している。

 第八章では、第四原則(第一ステップで完璧な成功をえよ)を説明している。

 第九章では、第五原則(リーダー自身がゴールとステップを設計せよ)を説明している。

事例(長嶋監督一世一代のプロセス暗示)

◆長嶋監督の予言

 さて、現代最高のカリスマといえば長嶋監督以外にないだろう。実際、彼は、しばしば予言者と呼ばれた。私は、長嶋監督の采配について研究してみた。その結果、長嶋監督が心理学を真剣に研究していたのだと確信するようになった。

 長嶋監督の予言者的名声を高めたのが、1994年10月8日、あの「国民的行事の日」の直後だった。中日を倒して出場を決めた日本シリーズの直前、長嶋監督は次のように語っている。

「ウチの投手陣が普段の力を出せば、シリーズは負けませんよ。打線も130試合目の中日戦で闘志を見せたし、あのゲームを勝った自信は大きい。日本シリーズはウチのものでしょう。しかも第7戦はありませんよ(1)」

 西武の選手は何度も修羅場をくぐった者ばかりだったが、巨人の選手はシリーズ経験の少ないひよっこだった。下馬評では西武が圧倒的に有利とされていたため、監督の言葉はやや不審の目で受止められた。

 しかし、日本シリーズでは、長嶋監督の予言どおり、巨人が4勝2敗で西武を破った。長嶋監督はいったいどうしてこんな常識とかけ離れた予言ができたのだろう。また、同じ勝つにしても、なぜ4勝1敗や4勝3敗ではなかったのだろう。

◆長嶋監督の洗脳

 当時の打撃コーチ・中畑清は、次のように語っている。

「監督は選手権の前、よくコーチを集めてミーティングを開きました。シリーズのシミュレーションをして自分の考えを私たちに話すんです。東京ドームの2試合を2勝0敗の場合、1勝1敗の場合、運悪く0勝2敗の場合とすべて想定して、その後の戦い方、投手起用のことなど、実に細かく説明してくれるんです。それを聞いていると、『ああ、オレたちは勝つんだ』と思いましたね。しかもそのシミュレーションは第6戦で終えることになっているんです(2)」

 これこそ、プロセス暗示そのものであったといえる。長嶋監督の予言はコーチだけでなく、全選手に伝わっていた。

 このシリーズでMVPをとった槙原は
「ずっと前から監督が絶対勝つ。われわれは4勝2敗で勝つ、と何度も何度も言ってたんですよ」 と、日本一決定後の取材で驚き混じりに繰り返していた(3)。

◆別の予言

 長嶋監督はもう一つ予言をしていた。それは「第6戦がビッグゲームになる」というものであった。監督は東京ドームで行われる第6戦のチケットを、1、2戦より多い80枚用意して、知人を招いたのである。当然、選手たちもそれにならった。

 暗示効果を高めるために、これはたいへん重要なことなのである。つまり、こうすることで、選手たちは知らず知らずに、予言と自らの行動とを一致するように仕向けられたのだ。彼らは、知らぬ間に「第6戦で優勝する」と断言していた。

 また、日本シリーズの直前に、都内の中華料理店で決起集会が催されたときにも面白いことが起きた。たまたま居合わせた巨人ファンで女優の宮沢りえに、長島監督は「第6戦に招待します」と言ったのだ(4)。

 とっさの思いつきだったのであろうが、このあたりにも長島監督のひらめきを感じさせられる。こうして、選手たちはミスターの暗示にいつのまにかかけられていった。

 週刊ベースボールの記事は、長島監督の予言を正しく評価している。
「長島監督は予言を的中させたわけではなかった。自ら『4勝2敗』という確信を持って見せることで選手たちにそのイメージを植え付け、選手の方を自らの予言へと導いたのだ(5)」

◆プロセス暗示の威力

 プロセス暗示を提示するリーダーには、以下の要件が求められる。
  ●メンバーからの信頼
  ●ゴールまでのプロセスを描く能力
  ●プロセスの各段階ごとにとるべき行動を適切に指示する能力
  ●プロセスを自信を持って自ら断言できること
  ●プロセスに対する信頼をメンバーに自発的に断言させる能力

 長嶋監督には、信念をメンバーに伝播させる抜群の能力があった。これがカリスマたるゆえんなのであろう。しかし、監督はカリスマ的能力だけに依存しているわけではなかった。監督には確かな暗示技術があったのだ。

事例(学生に対する助言)

◆パニックに陥った学生

 ある日、知り合いの大学生が、私に電話をかけてきた。就職を希望していた会社の面接が、うまくいかなかったようだ。声を聞くなり、取り乱しているのがわかった。早く次の手を打たねばと、焦っているのが、手に取るように感じられる。

「面接の結果がわかるまでに一週間もあって、とてものんびり待っていられません。今すぐ次の就職先を探さなければならないんです」

 そう言いながら、今度は
「すぐに指導教授に相談しないと」
 と言って、
「でも、学校推薦をもらえるでしょうか」
 と口走る。

 あれもやらねば、これもやらねばと、頭の中はグチャグチャで、すっかりパニックに陥っているようだ。面接官にえげつない質問をされ、世間ずれしていない純真な若者は自信を失ってしまったのだろう。

 気の毒に思った私は、彼にこう言った。
「どこの会社でも、良い人材はよその会社にとられたくない」

「一週間後に結果を知らせると会社が言っていても、合格なら二、三日中に連絡してくるはずだ。遅くとも週明けには連絡がくる。だから、それまで待ったらどうだろう。就職状況が厳しいのはわかる。でも、仮に今の会社がうまくいかなかったとしても、それぐらい待っても、どうとでもなるはずだ」

「教授に相談するのは、それからでも遅くないのではないか。でも、どうしても待てないというなら、すぐに教授のところに行って、相談するのもよいがね」

 私はこんな内容の話をして、最後に「後は自分で判断しなさい」と結んだ。初めは落ち着きのなかった彼の声が、私の話を聞いているうちにだんだん落ち着いてきた。最後には、明るい声になってきた。

「そうか、リラックスして待っていればいいのですね」と彼は言って、電話を切った。

◆不思議な結果

 数週間後、お礼の電話がかかってきた。幸い希望の会社に就職できたようだ。しかし、いっしょに電話に出た彼の母親は、どことなく腑に落ちない様子だった。

 彼女は「電話のあと、息子が急に元気になった」と言って、「不思議だ、不思議だ」を連発していた。

 本当は不思議でも何でもないのだ。混乱している人間は、頭の中で洪水が起きていて、水があふれたような状態になっている。そんな人間には、思考の水路をそっとひいてやればよいのだ。 そうすれば水は静かに流れ出す。

 私は彼に行動指針を示した。結果の通知まで二、三日待ち、そのあとは、結果によって対処方法を考えよと言った。そして、もし万が一結果が望ましいものでなくとも、次に打つ手(担当教授と話すことなど)があると示した。

 言い換えれば、私は予見されるゴールと、そこにたどり着くまでのステップを提示し、そのプロセスを観察し、またそれにしたがって行動するように誘導したのである。

 そのように導けば、自ずと冷静さが戻ってくる。しかも、行程にしたがって行動しようとすれば、知らぬ間にゴールへの到達意欲は高まるものだ。

◆いかに反発を生じさせずにこちらの意見を入れるか

 たとえば、私が学生に、激励のつもりで「そんなに焦らなくても大丈夫、君ならきっと合格しているよ」と言ったとしたら、彼はどう反応しただろうか。

 おそらく、こちらの意に反して、彼は気休めとしか受け取らなかっただろう。場合によっては、気楽なことを言うなと、怒りだしたかもしれない。

 本人はパニックになるぐらい失敗したと思っているのである。くれぐれも、相手と対立するような言葉を選択しないように注意してほしい。

 このケースでは、「合格できる」というようなことを、私は一切言わなかった。そのかわりに、「これから二、三日、様子を見て、それによって対処しようよ」と言った。これは、「不合格でもやりようがある」ということを暗示した言い方ともいえる。

 こういう言い方をすれば、不合格と思っている相手とは対立しない。その結果、焦っていた学生は、プロセスを見よう、と無意識に断言したのである。

 もう一つこれに付け加えると、私は最後まで自分の意見を押しつけなかった。私は選択肢を用意し、学生が自分で選ぶように促した。もちろん、選んでほしい答えはある。しかし、あえてそれを押しつけず、自分で感じさせるようにした。それは、自分から断言しなければ心に働きが生じないからである。

◆リーダーの信頼感

 このときより数年前のことだが、彼の大学の進路について相談にのってほしいと、彼と彼の母親が、二人して私に会いにきたことがあった。

 たまたま母親と私が知り合いだった縁からなのだが、私たちは昼食をとりながら、彼の進路方針や社会経済の情勢などについて話し合った。

 おそらく、そのときの私の助言は、それなりに評価されたのだろう。彼は私のことを多少なりとも信頼してくれたに違いない。それ以来、彼とは会っていなかったが、そのときのことを思い出して、私に電話してきたのだと思う。

 あるいは、彼の動揺をみかねた母親が、私に電話したらどうかと助言したのかもしれない。彼の就職希望先が、私がよく知っている会社だったということも関係したのかもしれない。

 ともかく、私と彼との間にはなにがしかの信頼関係があり、このことが私のアドバイスの効力を倍加させ、彼を断言させるのにおおいに役立った。

 メンバーとの信頼を築くことは、断言をさせるために特に重要な問題である。

 100メートル走では10秒の壁がなかなか破れなかったが、一度破れた途端、10秒を切る者が続出した。それは、多くのランナーが10秒を切るのは可能だと確信したからである。10秒の壁というのは、心の壁でもあったのだ。

 将棋の好きな人であれば、詰め将棋を解くときと、それと同じ形が実戦で現れたときとでは、正解に達する確率が全然違うということをよく知っている。 とにかく、解けるとわかって問題に立ち向かうのと、解けるかどうかわからずに立ち向かうのでは、問題の難易さがまるで違ってくるのである。

 なんといっても、「できる」と確信できることくらい、人間に希望と勇気をもたらすものはない。そこで、リーダーにとって大事になるのは、「メンバーにできる」と思わせることなのである。

事例(日本ビクターのVHS戦略)

◆暗示型戦略のポイント

 希望の星というのは何でしょう。それは「やれる」、「いけるぞ」と空想を呼び起こすもののことです。ですから「暗示」なのです。もちろん、リーダーの暗示ですよ。自己暗示ではない。メンバーにかける暗示です。

 個人に希望の星を与えることができるなら、チームに、組織にも、希望の星を与えられるのではないだろうか、という発想が次にわいてきました。同じことをやるなら、希望をもちながら行ったほうが、成功する確率は絶対高い。  

 そこで、組織が非常に苦しい状況にあるとき、どうすれば希望の星を与えられるだろうか――私はそういうこと考え、『成功を確信させる暗示型戦略』という本にまとめたのです。これは、特に非常時に向いた経営戦略の構築法です。

 その事例として、私は日本ビクターのVHS戦略を取り上げました。昔のことで、知らない人がいるかもしれませんが、かつてソニーとビクターは、ビデオの業界標準規格を争ったのです。VHS対ベータの陣取り合戦ですね。

 消費者は、異なる方式のビデオを二つも買うわけにはいきませんから、シェアの高いほうを買います。そうすると、シェアの高いほうが益々シェアが増えるわけです。そのため、ビデオ事業の浮沈は、自社の方式に参加してくれる他のメーカーをどれだけ集められるかで、決まってしまうのです。

  この勝負はビクターのVHSを擁する陣営に軍配があがりました。たいへんな番狂わせでしたね。ソニーのベータ陣営が負けるなんて。  そういう厳しい戦いを、メーカーはまだ生々しく覚えています。それで、家電業界では、ことあるごとに、業界標準ということを言います。

◆高野鎮雄・日本ビクタービデオ事業部長

 ビクターのビデオ事業部長の高野という人は、えらい人でしたね。彼の戦略を調べると、実に理にかなっています。私の「暗示型戦略」のお手本というか、ひな型のようです。

 ビデオ製品の黎明期においては、製品は業務用が中心で、家庭用の製品はありませんでした。そして、技術も市場シェアもソニーがダントツで、あとのメーカーはほとんど体をなしていなかった。  

 高野の基本戦略は、まず「ソニーと技術提携して、技術導入する。そこで基本の技術力をつけ、業務用市場で成功する。その技術力をバックに、今度は、家庭向けの、安くて、軽い製品を開発する。そして、家庭市場に参入して、ナンバーワンになる」という遠大なものでした。
 
 これは、私の言う「(プロセス)暗示型戦略」ですね。どういうプロセスを通って、ゴールに着くのかを部下に示していくのです。プロセスを示す利点は、部下がそのプロセスに意識を集めますので、チームとしての集中力が生まれやすいのです。

 しかし、高野や部下たちは、たいへん苦労します。なにしろソニーとビクターでは、技術力において大人と子供の違いがありましたから。その苦労をどうやって切り抜けていったか、おもしろいエピソードがいっぱいありますが、それは長くなるので割愛。  

 高野の戦略が成功した、その分岐点は、松下幸之助の支持を取り付けたことでしょうね。 ビデオ事業の陣取り合戦は、あとになって振り返ると、ビクターの親会社である松下電器がキーを握っていたことがわかります。

 松下の技術陣はビクターが大嫌いで、いつもけんか腰でした。もう少しのところで、松下電器は、子会社のビクターではなく、ソニーの陣営に入るところまで行ったのです。それを押しとどめたのが、松下幸之助です。彼は以前から、どういうわけかビクターに好意をもっていたようです。  

 高野は部下に家庭用ビデオの試作機を作らせていましたが、「世の中でいちばんいいものをつくれ」と言明していました。それができたと確信できたとき、幸之助を招き、試作機を見てもらったのです。幸之助は絶賛しました。これは勇気がわきますよね。幸之助は販売の神様と呼ばれた人です。独特の勘で、売れる商品かどうか、ぴたりと当てる人なのです。その人にほめられたら、これは勇気凛々でしょう。
 
 これが、結局ビクターの技術者たちにとって「希望の星」となったわけです。しかし、高野は漠然と希望の星を待っていたのではないのです。希望の星がどこにあるかをよく知っていて、それを得るために緻密な準備をし、またいつ希望の星を取りにいくか、最善の時期を探っていたのです。つまり、戦略プロセスのどこに希望の星を埋め込むか、いつも考えていたのです。

 やがて、プロセスどおりに物事が進み始めると、今度はプロセス自体が希望の星になっていきました。「このプロセスどおりやっていけば、絶対うまくいく」と、みんなが戦略プロセスを信じるようになったからです。

  リーダーは、希望の星を部下に与えるように努めていただきたい。特に、厳しい状況にあるときこそ、それが必要です。どうしたら、リーダーはそういう人間になれるのか、それが私の次のテーマかもしれません。
 
 高野は、ビデオ事業の功績を認められ、最後はビクターの副社長に就任しています。  

◆読者のコメント:

 高野氏とVHSのお話、大変参考になりました。 高野氏の成功プロセスのかなりの部分が、いわば水面下での必死の水かき・もがきに支えられていたのでしょう。 この試行錯誤のプロセスで挫折したり、ダメになったりすることは多いと思いますが、それを乗り越えて水面上まで みんなを引っ張っていった高野氏のリーダーシップには感服しました。
 彼を支えていたものとは、なんだったのでしょうか。個人的な成功や報酬よりも、愛社精神とか隣人愛みたいなものなのでしょうか。その点にも大変興味が湧きました。

◆佐藤直曉のコメント:

 私も、まったく同感です。おっしゃるとおり、高野さんは非常に魅力的な人であったようです。高野さんが亡くなったとき、霊柩車は彼の働いた工場の前を通って行きましたが、工場の人たち全員が見送ったそうです。

 高野さんという人は、信望のあつい人のようでした。事業部の技術者がリストラされそうになると、必死でそれを防ごうと努力しています。また、販売不振で、サプライヤーを切らねばならないようなとき、なんとか注文をまわして、サプライヤーのために働いています。もちろん、一度切ったら、次に協力してくれないという計算はあったのでしょうが、それ以上に人情を感じます。  

 残念ながら、高野さんの人物像にまで、私は十分迫れていません。今、あらためてこの本を読み返すと、高野さんのことをもっと知りたくなりました。

第一部  プロセス暗示
第一章
プロセス暗示とはなにか
  1ヴィジョンと現実の間に横たわる淵
     ヴィジョンの時代?
     ヴィジョンは力を保っているのか
     虹の橋をかける時代は終わった
     非常時のリーダーに求められる能力
  2暗示のメカニズム
     空想と意志の関係
     願望達成法
     暗示型戦略の暗示効果
     自己暗示と相手にかける暗示の違い
     深層心理学の実践者・長嶋監督
     イメージ・ビデオ
     国民的行事の日
     暗示の難しさ
     イメージを取り違えて起きる珍事
     観念の違いによる誤解
     相手の言葉に反発する心理
  3プロセス暗示の実例</B>
     パニックに陥った学生/不思議な結果
     相手に断言させる
     口に出して言う効果
     耳の威力を駆使していた江戸時代の庶民
     いかに反発を生じさせずに断言をさせるのか
     リーダーの信頼感
     メンバーに確信を与えるプロセス暗示
  4長嶋監督のプロセス暗示</B>
     預言者の真価
     ケーススタディ 1994年――預言者誕生
     不可解な監督の言動/長嶋監督の洗脳
     別の予言/プロセス暗示の威力
     観念にかかる内外の圧力
 第二章
人はなぜプロセスを信じるのか
   1予言を研究する意義
     予言とプロセス暗示の類似点
     流言の分析
  2なぜ流言は受け入れられるのか
     最も恐ろしい予言
     ケーススタディ――東京大地震襲来騒動
     当時の社会的背景と問題論文
     事件の勃発/偶然の前兆現象
     大森による事態の沈静努力
     大地震の流言が広まった原因
     今村と大森の対立/今村の講演
     さらに続く対立/運命の日
  3なぜ流言はうさんくさいと思われないのか
     本物の予言
     ケーススタディ――富士山大爆発
     伏線
     富士山大爆発の予言が広まった原因
  4プロセスが受け入れられるための条件
     共通した条件/流言の成立条件
     予言の論理構造/預言者の論理
     プロセス暗示に対するヒント
     プロセス暗示には人間の意志がかかわる
 第三章
プロセス暗示の基本概念
   1プロセス暗示を探す
     整体指導における暗示技術
     プロセス暗示を利用している専門家
     擬似的なプロセス暗示
     ファストフード店の接客マニュアル
     得意のパターンとは「型」のこと
     相撲取りの「得意の型」
     勝利の方程式
     信じられない行動
     成功プロセスではなく失敗プロセスが蘇った
  2プロセス暗示のメカニズム
     プロセスを追う心理
     プロセスと断言
     プロセス暗示のステップとは課題でもある
  3暗示的手法と明示的手法の違いについて
     人はなぜプロセスを受け入れるのか
     道への恐怖に対する対策/予測不能の恐怖
     明示的手法――論理的リスク削減対策
     仮想プロセスによるシュミレーション
     暗示と明示の違い
     プロセス暗示の目的
第二部  暗示型戦略のプロセス構築論
 第四章
暗示型戦略の基礎
   1暗示型戦略の事例
     プロセスを重視する暗示型戦略/分析の方法
     ケーススタディ――日本ビクターのVHS事業戦略
     業界構造
     VHS連合の立役者・高野鎮雄
     ビデオ事業の危機/高野事業部長の事業戦略
     神風が吹いた
     ソニー・ベータマックスの展開と業界動向
     日本ビクター技術陣と松下幸之助/高野の賭け
     日本ビクターと松下電器の確執
     ソニーの対抗策
     VHSファミリーの形成工作
     ソニーの松下電器切り崩し工作
     松下幸之助の決断
  2事例解説
     高野事業部長の戦略プロセス
     次のターゲットは松下幸之助
     対外活動の開始
     革新の普及について
     高野の巧妙な手順
 第五章
第一原則――
最も動きやすいところから着手せよ
  1伝動戦略のアプローチ
     “動きやすいところ”から狙う
     対立や抵抗を避ける
     手強いところは避ける伝動戦略
     事例1 ヤマト運輸の認可対策
     事例2 日本企業の市場戦略
     事例3 銀座木村屋のあんぱん普及戦略
     伝動戦略の類型
 第六章
第二原則――
プロセスが「見える」ようにせよ
  1心理的効果を考慮したプロセスの構築
     先例でプロセスの可能性を示す
     因果関係を用いる
     心理的ロジックをつくる方法
     メンバーの常識と対立しないプロセス論理を示せ<
     ゴールは過激でもいい
     ステップ数は心理的動揺をコントロールする
     目標達成に不可欠なステップを忘れるな 
 第七章
第三原則――
課題の選択を誤るな
  1希望追求型と障害克服型の「課題」
     希望を追求させる暗示
     意識を希望に向けさせる
     障害を克服させる暗示
     山が見えれば幸せが見えてくる
      障害を克服させるとき痛みが発生する
  2暗示型戦略における「課題」の意味
     機とは何か/心の高まりの一致度
     見えすぎると困る
     課題の選び方
     ケーススタディ――1996年・メイクドラマの成就
     ロケットスタートの宣言
     空中分解したロケット
     ウサギからカメへの方向転換
     調子の上がらない巨人
     メイクドラマの予言
     八月攻勢と松井神話
     八月から九月にかけての激闘
     メイクドラマの佳境
     ついに完結したドラマ
     希望追求型の課題提示
     障害克服型の課題提示
     封印を解くタイミング
     課題の使い分け 
 第八章
第四原則――
第一ステップで完璧な成功を得よ
   1はじめが大事
     暗示を分類する意義
     二つの軸による暗示の分類
     初めに百パーセントの成功を求めよ
     成功条件を整備せよ
     初期のころは辺境の地で行動せよ
     味噌の大根漬けはできない
     長嶋監督の“始めが半分”
     幸先のよいスタートで波に乗れ
     ケーススタディ――小泉総裁誕生の戦略
     大衆に訴える戦略
     初戦の勝利が力を伝播させた
 第九章
第五原則――
リーダー自身がゴールとステップを設計せよ
   1暗示型戦略を成功させるリーダーの条件
     リーダーの資質と責任
     リーダーは信念を疑われるな
     一貫性ある行動と方針変更
     リーダーの信頼性は二つの面から考える
     戦略プロセスを説明しメンバーと共有する
     戦略プロセスの設計はリーダーの仕事だ
     リーダーの役割はゴールとステップの設定
     リーダーの資質を再考すべし
  2構造改革に関する設問
     ゴールと道筋が見えない
     痛みの伴う障害克服型の政策を選ぶべきか
     初期段階における百%の成功が見えない
     リーダーシップの危機



       





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